表彰文化を科学する
筋肉に魅せられ、体重70kgで床置きデットリフト140kgを上げられるトロフィー生活のスタッフがいます。そのスタッフが言うには、「筋肉も科学です。食べ物と運動という要素によって体に出る反応を理論的に積み重ねるとマッスルになるんですよ!」。筋肉ばかり発達させて大丈夫かしら? と傍から見ると心配してしまいますが、やみくもに鍛えているわけではなく、緻密な計算のもとに行っているようです。少し安心しました。実は、表彰文化も変わりません。表彰文化というモノによって、人間がどのような反応を起こすのかという部分は、合理的かつ科学的に説明できるものなのです。表彰は、非常に実践的なツールになりえます。
意欲と表彰文化との関係
違う角度から見ていきたいと思います。世界的に見ても日本人のモチベーションが低くなってきているといわれて久しい状況にありますが、これはすでに数字にも表れています。図1のグラフ「世界16カ国の仕事に対する意欲」をご覧ください。日本人千数百人を含む計8万6000人を対象に、アメリカ人材コンサルティング会社の大手「タワーズぺリン(現タワーズワトソン)」が2005年8月に行った調査の結果になります。
図1 世界16カ国の仕事に対する意欲(タワーズペリン調査より)
「非常に意欲的である」と回答した日本人は、たった2%となんと最下位……。次の「普通に意欲的である」を合わせれば最下位は免れますが、日本の課題がここに表れているといっても過言ではありません。仕事に対する意欲を高める何らかの施策があれば、会社自体の活性化につながると思いませんか? 例えば、今の人件費の費用対効果はまだまだ伸びる可能性があります。
ちなみに表彰文化の先進国であるアメリカは、21%の人たちが「非常に意欲的である」という調査結果が出ています。その意欲たるや日本の10倍! お国柄もあると思いますが、自分への自信度の高さも表れているのではないでしょうか。表彰文化が根付いている点は、見逃せません。
「賞賛を得たい」は誰もが持つ欲求
ネガティブな印象が目立つ日本ですが、原因の一つは、「褒めること」「表彰すること」が少ないことにあると考えています。これまで日本でやる気や意欲をはかる物差しといえば「労働量(時間)」が注目され、見かけだけにこだわりすぎていたのではと思います。これからは、「質」(創造性、革新性、洞察力、交渉力、判断力)で捉え、自ら仕事に集中できる意欲的な人材を育てることが重視されるべきです。
こうした意欲やモチベーションの向上を考えるときに参考になるのが、アメリカの心理学者であるアブラハム・マズロー博士が提唱した「自己実現理論」(図2参照)です。マズローは「人間は絶えず自己実現に向かって成長するもの」とし、それは5段階の欲求で構成されているとしました。低い階層の欲求が満たされると、次の階層の欲求が出てくるという具合に段階的に進んでいきます。
図2 アブラハム・マズローによる「欲求階層説」
表彰文化は「自尊の欲求」を満たすものに当たるので、取り入れることで、人材を次の段階の「自己実現の欲求」レベルに押し上げるきっかけになるかもしれません。例えば、目標達成者などを表彰するだけで、高い次元の目標に変わっていく可能性があります。
最近、褒められたのはいつでしたか?
また、別の方向から見れば、すべての人が日ごろの業務に対して称えてもらいたいという欲求を持っているということです。社会人になると称えられる場面はそんなに多くありません。自分自身に聞いてみましょう。最近、褒められたのはいつでしたか? 褒められたい、認められたいという欲求は本能ですから、満たされるべきものなのです。称える機会を増やすなど、そこを満たすという視点を持つことで、変わっていく部分が必ずあるはずです。そうすれば同じ人材でも、意欲のある人が増えていくきっかけになるかもしれません。表彰文化は見直されるべき重要な文化なのです。