仕事でも勉強でもやる気や意欲のある集団に属すると、「自分もがんばってみよう」という気が湧いてくるのが不思議です。「朱に交われば赤くなる」(かかわる相手や環境によって良くも悪くもなるという意)とは、昔の人はよくいったものですね。実は、脳の神経細胞である「ミラーニューロン」が発見されたことで、人は他者に影響される生き物であることが科学的にも証明されています。もしかしたら、会社の雰囲気を決定づけるような人物を示し社風を変えれば、それこそオセロゲームのように、ほかの人たちの行動に影響を与えていくかもしれません。なぜそうなるのかに注目してみましょう。白になるか、黒になるか――!?
共感する神経細胞
人には、自分が実際に行っていない動作でも、脳の中ではあたかも自分が動作しているかのように認識する機能が備わっています。そのカギを握っているのがモノマネ細胞とも呼ばれる「ミラーニューロン」です。
ミラーニューロンは、脳の前頭葉の運動前野にある神経細胞で、イタリア・パルマ大学の科学者ジャコモ・リッツォラッティ博士らによって1996年に発見されました。他者の仕草に対して鏡(ミラー)に映したかのように反応するためにミラーニューロンと名付けられました。また、イギリス・ロンドン大学の科学者シンガー博士は、他者の苦痛を感知する神経細胞「同情ニューロン」を発表しています。人には、ある動作の主体が自分であろうと他者であろうと、行為や意図、感情を自身に結びつけて考えられる「共感する力」があるという科学的な根拠が示されたのです。
思う以上に影響を受けている
テレビのグルメ番組を見たり、人が何かを食べたりするのを見るうちに、なぜかお腹が空いてくることがあります。また、相手が泣いているのを見て自分も涙が出たり、スポーツ観戦をして興奮したり――、これらの行為はよくあることだと思いますが、すべてミラーニューロンの働きによるというわけです。自分でも気づかないうちに影響を受けていることが多く、ある意味、人はさほど独創的な生き物ではなく、他者や環境に左右されやすいものだともいえる理由です。
話しは逸れますが、「共感する力」には個人差があるので、誰しもが自分と同じように考えていると思うのは短絡的かもしれません。例えば男女によっても差あります。「カードゲームで不正行為をした人に対する罰し方の実験」によれば、男性のほうが不正に対して強い罰を望むという結果が出たそうです。逆に女性は、どちらかというと罰を受けている人に同情しがちだとか。わかるような気がします。
よい環境に身を置くことが重要
人に影響されるというとマイナスな印象もありますが、言い換えれば他者をお手本にしたイメージトレーニングですから悪いことばかりではありません。スポーツであれば、実際に体を動かさなくても正しい動作や好プレイを見てお手本にしていたり、ビジネスでは、できる人の仕事の取り組み方を意識せずにシミュレーションしていたりして効果を得ているという理屈になるからです。とはいえ、悪い例に対しても知らず知らずのうちに影響されているということなので、注意をしたいものです。
となると、やはり一番いいのは「よい環境に身を置く」ことではないでしょうか。そもそも人は、他者から強制されたことでは、なかなか成果は上がりません。子どもに勉強をしなさいといっても、部下にどんなに情熱を持って仕事に取り組めといっても、なかなか実行されないのが世の常なのです。それどころか逆にやる気や意欲を失いがちであることも、身をもって体験している方も多いのでは!? 結局、大切なのは「自発性」です。そのきっかけの一つになるのが、前述した「どんな環境に置かれているのか?」なのです。
ミラーニューロンで受賞疑似体験
子どもに勉強をさせるために学習環境を選ぶのであれば、情報をリサーチして精査すればいいのですが、社風を変えるなど、今ある環境自体を変える・整えるとなると違ったアプローチになります。しかし、社風とは企業の価値観や信念、規範など目に見えない企業文化を指しますので、変えるなんて難しそうですよね。
そんなときこそ「トロフィー」です。表彰をするというのは、受賞する方たちの功績を称えることです。社内表彰であれば、社員や事業を対象に行われますが、ここでの受賞対象を何に注目するかで社風を決定づけるといってもいいのではないでしょうか。企業が求めているお手本となりえる人物を選んだり、推進していきたい事業を対象にしたりすることで方向付けが可能です。また、社内イベントとして表彰式を行うことで、多くの社員の方への周知にもなります。印象的であればあるほど、それぞれのミラーニューロンが活性化して、残念ながら今回は対象ではなかった社員たちも受賞シーンを疑似体験するというわけです。トロフィーを使った社風づくり、その影響のほどを試してみませんか?