コロナ禍の中のトロフィー

コロナ禍による緊急事態宣言が終了して早ひと月以上……、世界的にみればまだ感染拡大に歯止めはかかっておらず、日本でも連日の感染者報告がなされていますが、新しい生活様式に沿った「いつもの生活」が戻りつつあるのも確かです。

今年に入ってからの数カ月を思えば、対岸の火事なんてとんでもありませんでした。海外ニュースで見ていた新型コロナウイルス感染症ニュースは、あっという間に日本の地上波放送番組を席巻。日本の東京郊外にある多摩地区も世界の中にある一つの地域だったのだと実感させられたのです。

生きていくことが最優先され、それ以外のなくても困りそうにないもの(本当はそうじゃなくても)をひとまず諦めることが始まりました。その天秤にかかった「トロフィー」から見えてきたものとは――。

切っても切れない関係

長い歴史を持つトロフィーですが、詳しく知る方はそういないと思われますので、まずは成り立ちからお話しします。

トロフィーの起源は、古代ギリシャ時代にまで遡ります。戦いに勝利した側が、敵の武器や武具などの戦利品(のちのトロフィー)を神に捧げて戦勝を祝ったことが始まりだといわれています。その後、時代の移り変わりに伴って、戦いの場だけではなく、スポーツの競技大会、文化・芸術分野などにおいて勝者を称える象徴となり現代へと続いてきました。今でもトロフィーや優勝カップ、表彰楯といった表彰品の種類や形状に、当時の名残りを見ることができるのは、そのためです。

このことからわかるようにトロフィーの出番といえば、スポーツ大会や競技会、コンテストなどイベントの場が多くなっています。トロフィーとイベントは切っても切れない関係といえるのです。

しかし、このコロナ禍です。まず人と人との距離感が大きく変わってしまいました。一般的に新型コロナウイルスは、飛沫感染、接触感染で感染するといわれているので、できるだけ触れ合わないようにすることが求められました。2020(令和2)年4月7日には、ついに日本でも人の往来を最小限に制限するために緊急事態宣言が発令されました。

不特定多数の人たちが集まるイベントは、大きなものから小さなものまで中止です。今年いちばんのイベントとされていた東京2020オリンピック競技大会ですら来年へと延期となったのですから、トロフィー業界の受けた衝撃は……言葉の表しようもありません。

「不要不急」に戸惑う

緊急事態宣言の間に聞かれた印象的な言葉があります。「不要不急の外出の自粛」です。ここでいわれた「不要不急」とは、専門家によると「日常生活に不可欠な外出以外」とのことでした。人によって解釈に幅がありそうな言葉ですが、「不要不急かどうか?」が生活していく上でのものさしとなったわけです。

そして、このものさし、やはり人それぞれでした。見えないものですから、仕方ありません。それぞれが無意識に自分のものさしで他人を測ることを始めたために、今年の新語・流行語大賞にノミネートされそうな「自粛警察」なる社会的風潮まで出てきたほどです。今でもおさまったとはいえず、測ったり、測られたりで、ほとんどの人が息苦しさを感じていることと思います。

トロフィーも不要不急といわれれば、そうかもしれません。残念ながら、この先、数カ月の間、生活の場で手に入らないとしても生命が脅かされるわけではありませんから。まるで、いらないものにみたいに見える事態にも戸惑いを覚えました。

いる?いらない?いる?いらない?……、自粛期間中に持て余した時間で考えてみました。だてに古代ギリシャから現代まで続いてきた産物ではないのでは? という思いもあります。結果は、トロフィーは必要なもの、いるものだということです。なぜかというと、トロフィーは「人が人を称えるもの」、角度を変えて見れば「人と人をつなぐもの」だと考えるからです。

人と人とがつながれないストレス

「人間は社会的な動物である」といわれているように、人と人とがつながり合う社会の中でしか生きていくことができません。大きな災害が発生したとき、また社会生活に大きな打撃を受けたときに認識されるのが毎回「人のつながり」だということも、それを証明していると思います。

このコロナ禍でも、社会的な距離を保つことを求められたときに起きるストレスの存在について、アメリカ心理学会が警告しています。通常の生活から切り離され隔離された状況が続くと、「恐怖や不安」「抑うつと倦怠」「怒り、フラストレーション」などを感じやすくなるということでした。

すでに、対人距離を呼びかける「ソーシャルディスタンス(社会的距離)」や「ソーシャルディスタンシング(社会的距離の確保)」という言葉が一般化していますが、実は、世界保健機関(WHO)では「身体的、物理的距離」を意味する「フィジカルディスタンシング(身体的距離の確保)」に言い換えるよう早い段階から推奨しています。「人とのつながりの減少により社会的孤立が生じる」ことを恐れたためで、距離をとらなければならないのは、あくまでも身体的、物理的距離ですよ、というわけです。

「距離感」は、心につながっています。好ましいと思っている人との距離は縮めてより親しくなりたい、そうではない人は離れていたいという想いは、誰しも経験したことのある感情だと思います。このパンデミック下で、好むと好まざるとに関わらず、半ば強制的に距離をとることを求められてしまう状況に、心の問題が出てくるというのにはうなづけます。人は人とつながれないとストレスを感じてしまう生き物なのです。物理的な距離をとりつつ、心はつながれるという方法を模索しなければならないと思います。

これからの私たちに必要なもの

今回も働く環境においては密を避けるためのテレワークや在宅勤務が推奨され、会議もリモートやオンラインで行うという取り組みが一気に広まりました。プライベートでも、家にいながらパソコンやスマホでビデオチャットしながらの飲み会をされた方も多いのではないでしょうか。トロフィー業界でも、この自粛期間中、オンライン表彰式を行っている企業がありました。オンラインイベントも開催も珍しいニュースではなくなっています。

先行きの見えないコロナ感染拡大の中、もう新型コロナウイルス感染症によるパンデミック(世界的大流行)以前には戻れないのだと思います。身体的な距離を保つ工夫はしつつも、心のつながりはこれまで以上に意識して持つことが心身ともに元気でいるための秘訣かと思います。

トロフィーは相手に想いを伝えるためのものです。トロフィー生活でも、心のつながりを強化するツールとしてのトロフィーを積極的に提案し、新しい生活様式を豊かに過ごすお手伝いをしていきたいと思います。