「名前」が見える仕事は成果も上々!?

人は集団になると……

東京スカイツリーを見上げたら首が痛くなりました。こんな巨大な建造物を作るなんて、人ってすごいです。建設には、延べ58万人が携わったそうです。巨大というとピラミッドが思い浮ぶのですが、これもどれだけの人が集まって作ったのでしょうか。建設機械なんてない古代エジプト時代ですから、ほとんど力作業ですよね? 気が遠くなります。集団であれば、個人の力では成し得ないこともできてしまう。力は結集するほど強く、チームワークや連携は、社会生活において重要な役割を果たし欠かせないものです。

しかし、集団というのは、いい面ばかりがあるわけではありません。例えば、複数のメンバーで作業をすると、身を入れてやっているように見えない人もちらほら出てきます。思い当たる節はありませんか? 集団には、「1+1=2」にはならない難しさがあります。人は共同作業をするとき、単独作業をするよりも1人当たりのパフォーマンスが落ちてしまうのです。これを、社会心理学では「社会的手抜き」と呼ぶそうです。人が集まるところに多かれ少なかれ起きてしまう、この現象。特にビジネスとなると、業績を左右する問題です。実は「表彰」が予防策の一つになるのです。

大人数になるほどサボってしまう!?

社会的手抜きを調べる有名な実験に、フランスの農業技術の教授であったリンゲルマンが行った「綱引き」があります。リンゲルマンは、1人で綱を引っ張る場合、2人、3人……など、引っ張る人数を変えた場合の1人当たりの引っ張る力を数値化し比較しました。結果は、1人のときの引っ張る力が100%だとすると、人数が増えるにつれ徐々に1人当たりの力が弱くなり、8人のときには1人当たり約半分しか引っ張る力を発揮していなかったそうです。

これには、「ほかの人も頑張っているから、自分は多少の力を抜いても大丈夫だろう」「どうせどれだけ自分が頑張っているかなんてわからない」といった心理が無意識のうちに働くからだといわれています。確かに「自分しかいない」のと、「ほかにも誰かいる」では、気の持ちようが変わってきますよね。

責任や成果があいまいな状況

ビジネスの場面で考えてみると、例えば会議。参加する人数が多いほど「参加者が多いから自分が積極的に発言しなくてもいいだろう」と考えがちになるというわけです。「赤信号、みんなで渡れば怖くない」ではありませんが、集団には、個々が積極的に関わらないがために間違った方へと向かっていってしまう危険もあります。

社会的手抜きの原因には、「自分だけが評価される可能性が低い」「自分の努力の量にかかわらず報酬が変わらない」など、個人の責任や成果のあいまいさにあります。本コンテンツの「表彰工学」でもたびたびふれていますが、人は認められたいという承認欲求を持っています。個人の責任や成果が特定されない状況は、この承認欲求も満たされにくい状態にあるのだと思います。やる気がでないということですね。

個人にこだわることで

「○○さんが作ったトマト」など、生産者の名前や顔写真入りの商品などの取り組みで、売り上げが伸びているといいます。これは、消費者に安心して購入してもらったり、親近感を持ってもらったりすることを主な目的に行われているようです。確かに産地しか書かれていないトマトよりも信頼がおけるような気がしますが、結局は知らない人ですから売り上げアップに貢献? なぜ? とも感じます。

しかし一方で、ほかの効用もあるのではないかと思い当たりました。“顔”や“名前”が出ることで生産者の責任が生まれるということです。売り上げイコール自分への評価となり、成果も実感できます。前述のリンゲルマンの実験でいえば、1人綱引きの状態になるというわけです。「個人」にこだわることで、社会的手抜きの心理が生まれにくくなっているのではないでしょうか。

就業者の8割以上が集団や組織の中で仕事をする日本社会。「出る杭は打たれる」で横並びになってしまいがちですが、集団のデメリットである社会的手抜きを防ぐためには、より個人に注目しなければなりません。表彰制度を取り入れて、集団の中に埋没してしまいがちな「個人」にトロフィーを贈って注目してみませんか?