原則60秒以内。「すぐ!」の効用

困った行動は変えられる

人は、なぜ行動するのか。はたまた、しないのか――。

ダイエットを決意したのに高カロリーデザートの誘惑に負けてしまったり、早起きをして朝活しようと思っていたのにベッドから抜け出られなかったりと、思ったとおりにいかなった経験は誰しも持っているのではないでしょうか。意志が弱くて……、子どもの頃から三日坊主で……なんて言い訳をして、性格だからと諦めてしまっていませんか? 実は単にアプローチの方法が違っていたからなのかもしれません。

人間や動物の行動を科学的に研究する「行動分析学」によれば、私たちの行動は、意志や能力とは関係ないところで変えていくことができると指摘しています。自分自身のことはもちろん、同僚や部下、子育て中なら子どもの“困った行動”を解決することも同じ原理になります。これを読めば、来たる新年の誓いは今度こそ達成できるかも!?

私たちの行動には法則がある

行動分析学は、1930年代、アメリカの心理学者B.F.スキナー(1904~1990)の 研究に端を発する心理学の一つです。人間や動物の行動の「原理」や「法則」を導きだして、行動の予測と制御(コントロール)を行う実証的な理論になります。

行動分析による研究成果が蓄積され法則が確立してきたことで、現在では人間や動物の行動(特に困っていることや、達成したいこと)を解決するツールとしても活用されています。企業マネジメント、音楽やスポーツの指導、福祉、医療、家庭など、さまざまな分野での応用が盛んです。

難しい話しではありません。例えば、大きな事件があると必ずといっていいほど犯人の心の闇とは!? といった具合に、多くの場合、行動の原因は「心」に求められがちです。しかし、行動分析学では、それらを取り巻く「外的環境」に原因を求めていくという考え方になります。環境を変えれば、心とは関係なく行動も変わるということです。

「強化」「消去」「弱化」は60秒以内に

行動分析の基本的な考え方は、次の「強化」「消去」「弱化」になります。人の行動は、この3つによって方向づけられているそうです。

  • 強化
    ある行動をした直後に、いいことがあると、その行動をもっとしたくなる
  • 消去
    ある行動をした直後に、何も変わらないと、その行動を徐々にしなくなる
  • 弱化
    ある行動をした直後に、嫌なことがあると、その行動をしなくなる

身につけたい行動に対しては強化、困っているやめたい行動に対しては消去や弱化をすればいいということになります。

ここで重要なのは「直後に」ということです。実証的な研究の結果によると、行動後の60秒以内に行う必要があるとわかっています。なぜかというと、時間が空きすぎては、自分の行動に対するリアクションであると関連づけられないからです。「鉄は熱いうちに打て」といいますが、これと同じで早ければ早いほど本人に響きます。だいたい行動が起こってから60秒以内にというのが1つの目安になりますが、1秒でも早いほうがより効果的であるとされています。

“すぐ”にほめる! が原則

行動分析の法則に従って早速、困った行動を改善していこうと思った方、少しお待ちください。まずは、身につけたい、もしくは身につけさせたい行動に目を向けて、強化をしていくことから始めるといいでしょう。人は誰しも1日24時間の中で生きていて、行動の数は限られていますので、前向きな行動が増えたり、定着したりすれば、おのずとマイナスな行動は減っていく(もしくは目立たなくなる)はずです。弱化しようとしたのに、注目したがために困った行動が強化されてしまった! など、やぶ蛇になってしまうこともありますし……。

強化する方法として、人間にも動物にも確実に効果があるのが「報酬を与える」ことです。モノであってもいいのですが、「ほめる」「認める」ことができれば十分です。いわゆる「いいね!」のメッセージが当事者に伝わることで、行動は強化されます。期待どおりの行動が得られたら、「よくできた」の言葉でも、笑顔とうなずきのアクションでもいいのです。自分に対してであれば、自分へのご褒美もありですし、できたことの満足感自体も強化となり得ます。肝心なのは、強化の仕方よりも、“すぐ”にほめる! ということです。

 

参考文献:
島宗理『使える行動分析学――じぶん実験のすすめ』ちくま新書、2014年
舞田竜宣 著、杉山尚子 監修『行動分析学で社員のやる気を引き出す技術』日本経済新聞出版社、2012年
杉山尚子『行動分析学入門――ヒトの行動の思いがけない理由』集英社新書、2005年