MVP表彰だけではダメ!? 組織が活性化する表彰制度とは

「社内表彰」は金銭的な負担が少ないわりに、アイデア次第でリターン(社員のモチベーション向上)が大きい取り組みとして、多くの企業で取り入れられている制度です。しかし、せっかくの表彰制度を活かしきれていない例もあります。例えば、トロフィーや表彰楯などの表彰品を手にするのは、一握りの優秀な社員ではありませんか? トロフィー生活にいただくご注文内容を見ても、売上や利益率のいい働きや、新しい商品・技術の開発に対してなど、成果に注目したものが多いことに気づきます。実は、表彰対象が一部の優秀な人になってしまう成果主義の表彰制度のあり方が、組織全体のパフォーマンス向上につながっているかというと微妙なのです。では、どうすればいいのか……。これには発想の転換が必要です。

動機づけが必要なのは誰か?

パレートの法則をご存知でしょうか。結果の80%は原因の20%から生じるという経験則のことで、1897年にイタリアの経済学者ヴィルフレード・パレートによって提唱されました。例えば次のような事象をいいます。
・社会全体の所得の80%は、社会全体の20%の高額所得者が占めている
・売上の80%は、社員全体の20%で生み出している
・売上の80%は、商品全体の20%で生み出している
・仕事の成果の80%は、費やした時間全体の20%で生み出している
これら経済学に限らず、社会現象、自然現象などでも80対20の割合で立証できる事柄が多いことから、「80対20の法則」ともいわれている普遍的な事象です。

一般的に組織の中で優秀な社員(ハイパフォーマー)は約2割といわれるのは、このパレートの法則によるものです。表彰制度で考えれば、まさに「MVP表彰」「社長賞」を受賞する方々です。8割もの結果を出しているのですから、当然のことといえます。しかし、彼ら彼女らはトロフィーという動機づけがなくても、自ら高いモチベーションを持ってやれる人たちという見方があるのです。

働きアリの社会=人間社会?

もう少し、組織の法則を見ていきたいと思います。パレートの法則を細分化した考えに進化生物学者の長谷川英祐氏による「2:6:2の法則」があります。働きアリの行動研究をもとに発表されたもので「働きアリの法則」ともいわれます。働きアリは特殊な集団構成(コロニー)を持つ生物で、その社会構成は私たち人の組織になぞらえて考えることができるそうです。

研究では、働きアリの集団の中には、よく働くアリから、ほとんど何もしないアリまで幅広くいることを指摘しています。そもそもの遺伝的、能力的な差異を持っているため、その結果、2割の「よく働くアリ」、6割の「普通に働くアリ」、2割の「働かないアリ」の構成になるのだとか。ここで面白いのは、働かないアリの2割を排除すれば働くアリの集団になるかというとそうではなく、やはり、そのうちに働かない2割が出てきて、結局は2:6:2の構成になるということでした。「2:6:2」は普遍事象というわけです。

効率が悪いような気もしますが、実は、働きアリのコロニーを「持続性」という観点から見ると理にかなっています。例えば、全員がいっせいに一生懸命に働いた場合、疲れも同時にきてしまいます。無理してシステムを維持しようとすると、それこそ過労まっしぐら。あっという間にコロニー存続の危機となってしまいます。しかし、働き方が違うアリの集団では、いつも誰かが働き続けることができます。必要以上にコロニーに負荷がかかったときには、働かないとされているアリも動員されることがあります。コロニーにとって重要なのは、持続性。そのために2:6:2の構成が最適とされているのです。

それに、働かないアリは「働きたいのに働く場のない状態」で、単に有能なアリに先を越されて活躍できていないという考え方もできるんだそうです。上位のアリの2割がいなくなったら、残りの8割のアリたちの中からハイパフォーマーが出てくるわけですから、働かないアリも能力は十分に備えているというわけです。

8割の社員に注目

前述したように2:6:2の法則は、会社など人の組織でも当てはまる現象とされています。会社組織は、2割の「優秀な人」、6割の「平均的な人」、2割の「力を発揮しきれていない人」で構成されるといわれれば、そんな感じかも!? と思わないでもありません。

では、優秀な人を集めれば組織全体のパフォーマンスが上がるかというと、そうはうまくいかないというのが経験則によってわかっています。結局は、優秀な人と集めた人材の中で2:6:2の構成になってしまうからです。働き手不足で、優秀な人材が取り合いになっている現代では、そもそもハイパフォーマーを集めるのが難しいかもしれませんが……。そうであれば、今ある人材で組織のパフォーマンスを上げることが現実的だと思いませんか? いかに個々のモチベーションを上げるかに焦点を当てるべきです。

一般的にはモチベーションアップに能力給や報奨制度を用意しますが、重要なのは「努力しだいでいいことがある」と思わせることです。それも、2:6:2の構成人員の中でも「平均的な人」「力を発揮しきれていない人」の8割に注力すべきです。なぜかといえば、MVP表彰や社長賞をもらうような上位2割の社員は「努力しだいでいいことがある」をわかっているからです。全体の底上げを狙うほうがはるかに効率的です。

もちろんMVP表彰や社長賞が必要ないと言っているわけではありません。しかし、それだけでは、残り8割の社員に「次は私が!」という動機づけを行うどころから、「やっぱり優秀な人は違う。自分には関係ない」などとモチベーションを下げかねないのです。これでは、せっかくの表彰制度の効果が台無しと言わざるをえません。表彰制度をうまく活かすためには、MVP表彰や社長賞+アルファが必要なのです。

評価対象を「成果」以外に拡大

そもそも仕事の成果は、本人の力だけでは決まりません。仕事環境や運・不運といった要素も複雑に絡んできます。そこを踏まえて全員が表彰制度の対象となるための評価軸はというと、
・プロセスや努力
・個人ではなくチーム
で考えるといいでしょう。個人の能力や才能には差があるものですが、チームであれば対象が広がりますし、努力や工夫はその気さえあれば増やすことができます。大切なのは、チームワークへの貢献、部下の育成、前月・前年と比べて伸び率の高い社員など、一人ひとりを見ることです。

ただ、数値になって出てこない部分なので、評価の仕方が難しいと思うかもしれません。本人は頑張っていたつもりはないのに、頑張っていると言われても心には響かないものです。もし、ほめる内容に迷う場合は、本人にたずねてみるといいでしょう。仕事で注力したところ、工夫したところを聞いてみて、本人からの答えを引き出し、そこをほめます。ほめてほしいところをほめるのが一番効果的です。MVP賞や社長賞だけではなく、個々人のほめるに合わせたオーダーメイドの賞を作ることで組織全体の活性化につながることでしょう。

◎参考文献:
長谷川英祐(2010)『働かない蟻に意義がある』(メディアファクトリー新書)