“しぐさ”に表れるあなたの本音

無意識のうちにしている自分の“しぐさ”を気にしたことがありますか? あなたはあなたの考えている以上に“しぐさ”に本音を出してしまっているかもしれません。この“しぐさ”のような言葉以外のあらゆる伝達手段はノンバーバル(非言語)・コミュニケーションと呼ばれ、対人コミュニケーション全体のおよそ60~65%を占めているといわれています。人は言葉で伝える以上に、顔の表情や体の動き、姿勢、身なり、声のトーンによって多くの意思や感情を表しコミュニケーションをとっているというわけです。

多くの場合、ノンバーバル・コミュニケーションは意識せずに行われているので、実際の言葉よりも正直になります。私たちのどのような“しぐさ”が相手へのシグナルとなっているのでしょうか。取引先や上司、同僚、家族、友人と上手につきあい、ものごとをスムーズに運ぶためにも知っておくにこしたことはありません。ここでは“しぐさ”が持っているコミュニケーションの力について考えていきます。

「見てはいるが観察していない」

シャーロック・ホームズの部屋

評判を聞いてずっと気になっていたイギリス・BBC製作の海外ドラマ『シャーロック』をシーズン1から通して観ています。アーサー・コナン・ドイルの原作をきちんと読んだことはないので、ミーハーな気持ちで観はじめたわけですが、すぐさま引き込まれました。舞台を現代に置き換えて、スマホやインターネットを駆使し事件を解決していくコンサルタント探偵のシャーロック。展開も伏線もさすが海外ドラマです。飽きさせません。この夏、日本初放映されたシーズン4はまだ観てないので、今から夏休みに観るのが楽しみです。

前置きが長くなりました。今回のテーマであるノンバーバル(非言語)・コミュニケーションですが、シャーロック・ホームズこそ、ノンバーバルなシグナルをすくい取る達人だと思ったので、つい……。名探偵シャーロック・ホームズが相棒のジョン・ワトソンにかけた言葉に「君は見ているが観察していない」というのがあります。私たちもジョン・ワトソン同様、さまざまな無言に発せられているメッセージを見逃しているのかもしれません。ただ見るだけではなく、観察することで今まで見えなかった事柄が導き出されていきます。

本音が見える本能的な反応

ノンバーバル・コミュニケーションでは、「無意識に行われている反応」がキーワードになります。私たちには、意識して行っている反応と、無意識のうちに反射的、瞬間的に行っている反応とがありますが、すべての行動は脳によってコントロールされています。意識的に行っている反応は私たちの制御下にあるわけですが、無意識な反応をコントロールすることは難しい。例えば、大きな物音がしたときに飛び上がってしまったり、緊張のあまり汗をダラダラとかいてしまったり、などは意識せずに反応してしまうもので止められません。たいていの人が、口では嘘をつけたとしても、行動やしぐさに不自然さが出てしまうのは無意識ゆえに起こる反応のためです。

無意識に行われる反応は、主に脳の大脳辺縁系から指示が出ています。大脳辺縁系は「考える」ことはせずに、ただ「反応する」のみなので、原始的な脳とも呼ばれます。大脳辺縁系には、人類が生き伸びていくためのさまざまな経験知をデータとして蓄積、危険や不快なことを避けて、安全で快適なことを求める行動をとるような回路がプログラミングされています。危険に遭遇した場合、まず「固まる」、次に「逃げる」、そして最後に「戦う」という反応をしてしまうなど、古くは私たち人類の祖先によってインプットされたデータもあります。個人の意識では、変えることのできないレベルの反応です。ですから、大脳辺縁系からくる無意識な反応には、その人の正直な気持ちが表れるといえます。このノンバーバル行動に注目することで、より多くの情報を得ることができるというわけです。

メッセージを伝えるシグナル

無意識に行っている“しぐさ”が伝えるメッセージについて見ていきましょう。

 ◆もっとも正直な気持ちが出る「足」

本当の気持ちが体のどの部位よりも現れやすいのが足になります。たいがいの人は表情については気をつけていますが、頭から遠い部位になるほど意識が薄れがちになるからです。顔ではポーカーフェイスを装って平静にしていても、足が小躍りして嬉しさが表れているなんてこともあります。足の向きを見れば、相手が自分に会って嬉しいのか、そうではないのか判断できるといいます。人は好きなもののほうに向く傾向があるので、足先をこちらに向けていれば歓迎、出口のほうなど別方向に足先をそむけていれば、その場を離れたいというサインになります。

また、両足を開いて立っていたら注意が必要です。両足を開くのは縄張りを主張する行為なので、気分を害している、自分の立場を優位にしたいというシグナルになります。もし相手と友好的な関係を築きたい場合なら足は閉じていたほうがいいでしょう。逆に権威を示したい場合は意識的に足を広げて立つと効果があります。足は多弁です。人の前で足を交差させている場合は、快適さや自信を感じているときになります。姿勢や立ち方を観察することで、おおまかな感情を把握できます。

 ◆人はなぜか「手」に注目してしまう

人の手は繊細な動きができ、表現力も豊かなため、その人の考え方や感じ方を読み取ることができます。実際に私たちの脳は、体のほかの部位に比べて手に注目する度合いが高いという研究結果もあります。もし武器を持っていたとしたら自らの命に危険が迫るわけなので、本能的にそうしてしまうようです。手の動きによって、人に与える印象や影響がかなり変わってくるということを認識しておきましょう。

例えば、手のひらを見せない、テーブルなどで手を隠すなどすると、相手に対して非常に悪い印象を与えてしまいます。前述したように、人は手からの情報を重要視する傾向にあるので、隠されるとそれだけで不信感を持ちます。人と話す場面では、必ず手を見えるところに出しておくといいでしょう。また、人に指をさす行為は、日本では「ひそかにそしり嘲る」という歓迎されない行為となりますが、世界の多くの国でも同様に嫌われるしぐさとなっていますので気をつけます。

相手が真実を話しているかどうかも手の動きの大きさでわかります。危険を感じた時に人はまず「固まる」と前項でふれましたが、ウソをついている場合は、ウソが明るみに出るのを恐れて動作が小さくなります。身振りや手足を動かす範囲を小さくし、無意識のうちに注意を引かないような動作をします。ですから、相手の手の動きや急に小さくなる場合が見られたら、真実ではないかもしれないことを疑いましょう。

 ◆1万種類以上の表情を持つ「顔」

顔はかなり多くの情報を発信している部位です。人は体系立てて教わるわけでもないのに、怒っているのか、興奮しているのか、不安なのか、悲しんでいるのか、驚いているのか、飽きているのかなどの感情を、顔の表情から読み取ったり、自分の顔で表現したりすることができます。一説では、1万種類以上の異なる顔の表情を作るとされています。しかし、表現力が豊かで正直な気持ちを効率的に表せる一方、ある程度まで表情をコントロールできるため、いつも本心を伝えているとは限りませんが……。

とはいっても、細かく観察することでわかることもあります。緊迫感を生み出す不快な気持ちがあるときは、あごの筋肉に力が入る、小鼻をふくらます、目を細める、唇を引き締めるなどの反応が見られます。ただ、人は負の感情を隠そうとすることが多いので、気づきにくいかもしれません。入念に観察して表情を見極める必要があります。

「目が笑っていない」と笑顔の真意を疑う言葉がありますが、顔の部位でいえば「目」から伝わる情報は正直な部分が多いといえます。人の瞳孔は、心地よさを感じると開き、不快なときは閉じるというように感情によって変化します。不快なことが起こったときなどは、瞳孔を閉じるだけでは不十分な場合、目を細めたり、目をふさいだりという行為をします。もしこのような行為が会話中にあれば、相手に快く受け入れられなかったシグナルです。ただ、感情には関係なく、光線などの外部からの刺激によっても瞳孔は変化します。状況や環境にあわせて判断してください。

また、目のわかりやすい動きに「見つめる」「そらす」というのがあります。見つめるという行為は、相手に好意を持っていたり、興味があったりする場合にします。ただ、相手をだますなど悪意を持つ人物の手口としての「見つめる」もあるので要注意です。一方、目をそらすという行為ですが、「都合の悪いことでもあるのでは?」などと悪い意味に受け取ってしまう場合がありますが、考えを整理したり、従順な気持ちを表したりする行為でもあります。会話に心地よさを感じているから、目をそらすという研究もあります。そうそう、強盗にあったら決して目をそらしてはいけません。屈服したとして、ひどい目に遭う確率が高まってしまうそうです。

“しぐさ”で表す「認める・ほめる」

多種多様な価値観を持った人々によって構成される社会では、本当の考えや想い、感情を正直に何もかも話すことがいいとも限らず、とまどうことが多いのは確かです。必要なことはもちろん言葉で伝えるべきですが、言いづらいこともあります。言葉では語れない本音が表れているのがノンバーバルな行動です。言葉だけでなく、動きや反応といった非言語的な部分に注目することで、人とのコミュニケーションがスムーズになります。

“しぐさ”には、言葉以上に想いを伝える力もあります。手のひらを見せて両腕を開く行為は、「あなたを歓迎します。あなたは素晴らしいです」という温かい気持ちを伝えます。表彰式などで受賞者を賞賛する際によく見られます。もう少し進んだ行為にハグ(抱擁)があります。その国の文化背景によって適当か不適当かを判断する必要がありますが、ハグをすると、ドーパミン(快楽ホルモン)やセロトニン(安心感を与えるホルモン)が分泌されてストレス軽減になるという研究もあります。

同じように、慰めや激励、称賛の気持ちが表れている“しぐさ”に、相手の背中を抱いてポンポンと叩く行為があります。動物行動学者デズモンド・モリスによると、「よくやったね」「大丈夫。うまくいっているよ」というメッセージだそうで、人だけではなく、サルにも見られる行動だとか。そして拍手は、その延長線上にあって、相手をじかに抱けないときに「片手を相手の背中にみたて、もう片方の手で叩く」という代償行為だと指摘しています。“しぐさ”に込められた深い想いを、ただ見るだけで終わらせず、じっくり観察して味わいたいものです。

 

参考文献:
『FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学』ジョー・ナヴァロ/マーヴィン・カーリンズ著 西田美緒子訳(河出文庫)
『とっさのしぐさで本音を見抜く』トルステン・ハーフェナー著 柴田さとみ訳(サンマーク出版)
『今すぐ使える心理学「しぐさ」を見れば心の9割がわかる!』渋谷昌三著(王様文庫)