格差社会のこどもたち
貧困、経済格差、負の連鎖……、よく耳にするワードになってきました。どこか遠いところにある問題というよりは、身近に迫ってきているという息苦しさを感じます。先日も「親の経済力でこどもの未来の収入が変わるのは当然だ!!」という話題が、テレビ朝日のバラエティー系討論番組で取り上げられていました。「経済力のない家庭で育つこどもは、努力して勉強して点数がよくなったらほめられるという経験すらしていないことがある。そして、努力して勉強するなんて無意味だとあきらめてしまう。これが将来の低収入につながる」とこどもの置かれている環境の問題に注目し、まずは親の考え方を変えていくべきだと指摘していました。
具体的な方策として、「勉強でなくともスポーツでもいいので、がんばったらほめられる、努力をしたら報われるという場所を子どもたちに用意してあげること。努力の結果が見える場所が必要だ」と提案していたのですが、これはトロフィー生活の「 “ほめる”“認める”を普及させることで賞賛される人を一人でも多く増やせば、世の中はもっと良くなる」という主張と重なります。そこで、今回は「ほめる・認めることは、こどもの学力格差の改善につながるのか」について考えてみました。
親の年収とこどもの学力は比例する
まずは、根底にある親の経済力がどの程度こどもの学力に影響するのかについて、2013年に公表された文部科学省の調査があるので紹介します。これは、全国学力調査と保護者アンケート調査の結果を組み合わせたきめ細かい調査となっています。一部になりますが、小学6年生を対象に世帯収入とこどもの学力を比較したものを次に示します(図1)。
図1 世帯収入とこどもの学力 (対象/小学6年生)
世帯収入の違いによって、学力テストの正答率に約20%もの開きが生じていました。裕福な家庭のこどもほど学校の成績がよいという事実がはっきりと表れています。また、この調査は、小学校だけでなく中学校でも行っており、調査対象となったすべての科目において、経済的に恵まれている家庭のこどものほうが、そうでないこどもと比べて正答率が上という結果が出ています。
親の経済力およびこどもの学力は、当然のことですが卒業後の進路にも影響していきます。次に学歴別による生涯賃金(図2)を示しましたが、こども時代の学力が生涯得られる賃金への多寡にも及んでしまう可能性が大きいのです。
図2 学歴別生涯賃金の比較
結局、親の経済力で決まってしまうのかと思うと、なんだか夢も希望もありませんね。貧困という環境に置かれているこどもは、そこから抜け出すこともできない……。日本は少子化が進み将来の働き手不足の問題も出てきているのに、少ないこどもたちすべてに十分な教育や育ちの場を与えることができない状況にあります。
こどもへの関心がカギになる
親の経済力は、なかなか変えられるものではありません。これによって生まれる教育の格差をなくす手立てはないのでしょうか? 文部科学省の同調査で行われた「親の子どもへの接し方」や「親の普段の行動」と学力との関係の分析を見てみたいと思います。こちらは、親の経済力に直結しない調査になっていますので、きっかけをつかめそうです。
こどもの学力が高い層で多い「親の子どもへの接し方」には、「こどもが小さいころ、絵本の読み聞かせをした」「毎日こどもに朝食を食べさせている」「ゲームで遊ぶ時間は限定している」「家には、本がたくさんある」「こどもが英語や外国の文化にふれるように意識している」「親が言わなくてもこどもは自分から勉強する」などが挙げられています。
また同層の「親の普段の行動」としては、「本を読む」「新聞の政治経済の欄を読む」「家で手づくりのお菓子をつくる」「美術館や美術の展覧会に行く」「クラシック音楽のコンサートへ行く」「学校での行事にひんぱんに参加する」などが多くなっています。
経済的に厳しいと継続して実践できない行動もありますが、お金がかからずにできる行動もあります。これらの回答を見て感じるのは、こどもの学力が高い層では、総じて子どもへの関心が高く、教育を意識して行っているということです。人のやる気や意欲は、周囲から認められるという、いわゆる承認欲求が満たされることで生まれます。学力が高い層のこどもたちは、そうでないこどもたちよりも、経済的に恵まれているだけなく承認欲求が満たされる機会が多いとも言えます。そうだとすれば、現状の経済力を変えるのは難しくても、こどもへの関心の度合いを深め、「ほめる」「認める」ことはできます。こうした意識の持ち方がカギになるのではないでしょうか。
「ほめる」は社会的にできること
厳しい環境でも努力して伸びていくこどももいるし、苦しい中でもこどもの支援を惜しまない家庭環境もありますが、それはほんの一部です。格差の底辺であればあるほど、意欲そのものを失ってしまうケースもあります。こどもの親である人たちが“貧困”という生活に疲れきってしまい、こどもの「ほめられたい」「認められたい」という気持ちに十分に答えてあげられない現状もありそうです。
個人レベルで対応が難しいという問題は、社会的レベルで支えるという考え方があります。学校教育や、地域のコミュニティー活動の場などで、こどもたちを「ほめる」「認める」場を用意することで変えられることがあるかもしれません。トロフィー生活でも、一人でも多くのこどもたちに「おめでとう」を伝えていく努力をしていきたいと考えています。