「失敗」から目をそらしていませんか?

次にチャレンジする力

トロフィーを受賞する場面を思い浮かべてみてください。たいてい優勝したり、記録を達成したり、売り上げや成約件数を上げたりして受賞するプラスなシーンが多いと思います。でもそうなると、トロフィーをもらえる機会も、人も限られてきてしまうのが残念なところです。もっとチャンスがあれば、みんなが元気になれると思いませんか? 実はトロフィーは、何も成功したときだけのものとは限りません。人間ですから、良いときも悪いときもあって、失敗なんて大小を合わせたら、成功の数よりもあるはずです。逆の発想から失敗を表彰することも「あり」では!? と、実践している企業があります。

金属部品メーカーの太陽パーツ株式会社(大阪府堺市)では、損失を出した社員らを対象にした「大失敗賞」(金2万円)を設けているそうです。導入を提案した社長自らも設備投資で失敗して、「大失敗賞」を受賞したお1人。社長曰く、「挑戦する人を評価しようと考えた」とのことでした。「会社はつねに挑戦して進化していかないと生き残れない。何もしないのではなく、失敗するぐらいのチャレンジ精神がないとダメ」と、社員がチャレンジしていく土壌を作っていくためにと思いつかれたそうです。

失敗という強烈な記憶

「失敗」に注目することは、理にかなったことでもあります。「あのとき、こうすればよかった……」というやり残したことや、「ああ、失敗したー」という記憶はいつまで経っても残り続けるものですよね。実は、この現象、心理学上「ツァイガルニク効果」と呼ぶそうです。人は達成できなかったことや中断していることのほうが、達成されたことよりもよく覚えているという現象について、旧ソビエト連邦の心理学者ブルーマ・ツァイガルニクが実証しているのです。

例えば、テスト勉強で必死に覚えた内容をテストが終わった途端に忘れてしまうという経験をたいがいの人は持っていると思います。これは、終わった事柄を忘れることで、次の新たなる事柄に備えるためと言われています。逆に中断したり、達成できなかったりすると、取り組みに対する緊張状態が持続したままになってしまい、強く記憶に残ってしまうそうです。つまり、「成功したことよりも、失敗したことのほうがよく覚えている」という訳です。せっかくの強烈な記憶をマイナスに捉えたままにするのではなく、表彰することで肯定できれば、こんないいことはありません。

「成功のもと」になっている!?

とはいえ、「失敗は成功のもと」という言葉もありながら、このご時世そんな悠長なことを言ってくれる人がどれほどいるか……。叱責されたり、最悪の場合、左遷されたり!? など、失敗してしまったら、及び腰になってしまうのも無理からぬ話しです。

しかし、考えてみてもください。チャレンジや初めて取り組むことに対しては、誰しも初心者です。医師や航空パイロットなどで考えればわかりやすいと思いますが、さまざまな修業を積まなければうまくなるはずはありません。失敗によって得た技術やノウハウがあってこそ、次につながるものが生まれるのです。

冒頭にご紹介した大失敗賞の受賞者の方々も、その後、新しい事業を起こすなど、会社成長の原動力になっているそうです。社長さんを始め、この賞を受けた方が幹部候補になることも多いのだとか。失敗をチャレンジ精神として評価することの大切さがわかる好例です。個人レベルでも、失敗を否定的に捉えず、成功のもとになっているかを振り返ってみるのもいいかもしれません。

余談ですが、この「大失敗賞」をユーモアだと捉えきれず凹んでしまう社員さんもいるので、慎重に受賞者を選んでいるそうです! こうした配慮の上であれば、まさに「失敗は成功のもと」となるのでしょうね。

失敗したときこそほめよう!

ここまでくればわかると思います。挑戦しなければ、失敗はありません。失敗するということは、言い換えれば積極的に挑戦していることでもあるのです。ただ、失敗にも種類があるので、技術的エラーと規範的エラーの区別が必要だと、ヒューマンエラーを研究しているシドニー・デッカー博士は主張しているので紹介しておきます。技術的エラーは行うべき職務を果たしたものの要求される水準に結果が達しなかった場合を指し、規範的エラーは役割や義務を果たさずに失敗した場合を指します。つまり、技術的エラーであれば、次へつながるヒントを得られる機会なのだから、ミスをした人を責めるべきではないといいます。規範的エラーは単なる怠慢ですから、注意しなければなりません。

ビジネスや人生は試行錯誤の連続です。「前は失敗したけれど、次は違うやり方でうまくいくかもしれない」という考え方をできる人は大切な人材です。「失敗」をキーワードにして、あえて表彰する、ほめるということは、果敢にチャレンジしていってほしいという、親から子へ、会社や上司からのメッセージになります。周囲のチャレンジ精神を喚起するというプラス効果も見込まれます。失敗したときこそ、そのチャレンジ精神をほめてあげましょう。