仕事のパフォーマンスを有効的に上げる手段

仕事に満足していない日本人

「あなたは、今の仕事にどの程度満足していますか?」
これは、ヨーロッパやアジアのほか、アフリカやオセアニアを含めた世界32カ国で「職業意識」をテーマにした国際比較調査での質問の一つです。図1はこの質問を7段階で尋ねた結果のうち、「満足している(完全に+満足+まあ)」と答えた人の割合を国別に表したものになります。全体的に見ると満足度の高い国や地域が多いのですが、日本人の仕事の満足度は73%と、参加国中27位とかなり低い結果となっています。ちなみに職業を持っている人(収入を得るための仕事をしている人)の割合で見ると、日本は78%で参加国中6位と上位。働いている人の多くが、仕事に対して満足を得られていないという結果が出ているのです。

図1 仕事の満足度
「ISSP国際比較調査『職業意識』から」(2005年実施)
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出所:NHK放送文化研究所『放送研究と調査(2009年6月号)』,p.22.

別の質問では、仕事にストレスを感じることが「いつもある」「よくある」と答えた日本人の割合が38%と高く参加国中8位になっているので、日常的に仕事のストレスを感じている人が多いことも関係しているかもしれません。こういった比較調査は質問の方法や社会慣習などに左右されるので一概に言えませんが、仕事に満足を感じられず、ストレスまであるとしたら、働く側にとっても、会社側にとってもいいことではないはず。日本人の仕事環境について再考の余地があることは確かなようです。

「満足」と「不満」の要因は違う

では、仕事における満足とは、どこから得られるのでしょうか。俗っぽい考え方をすれば、給与や仕事環境などの条件がよいほど満足度が上がり、そうでなければ不満を感じる気がします。つまり、これらが充実していれば満足を得られると考えてしまいますが、アメリカの心理学者フレデリック・ハーズバーグは、今なお名論文として読み継がれる実証的な研究「動機づけ・衛生理論」で、「満足」と「不満」の原因になる事柄は違うことを指摘しています。

ハーズバーグによって行われた調査の結果をグラフにした「仕事への満足と不満足の要因差」(図2)を見ると、人が仕事に不満を持つ要因に作業環境を挙げているのに対して、仕事に満足を感じる要因は仕事そのものに関連していることがわかります。ハーズバーグは、前者を苦痛や欠乏を避けようとする生理的な欲求(衛生要因)とし、後者を心理的に成長しようとする人間的な欲求(動機づけ要因)として、それぞれ分けて考えるべきだとしています。

図2 満足と不満足の要因差

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出所:フレデリック・ハーズバーグ(北野利信訳)『仕事と人間性』より作成

モチベーションへの刺激が満足を導く

例えば、イヤな上司の下で働いたり、残業時間が多すぎたりといった負の衛生要因があれば不満を感じますが、解消されても満足度が大いに上がるとはいえません。イヤな上司がいなくなってすぐは快哉を叫ぶかもしれませんが、喉元過ぎればなんとやらで、すぐに当たり前のことになってしまうからです。満たされて当然という欲求は、継続した満足感にはつながらないというわけです。

一方、任された企画がうまくいったり、希望の職種についたりといった動機づけ要因があればどうでしょうか。みなさんの経験に照らし合わせて考えていただくとわかると思いますが、仕事への満足度はかなり上がるはずです。そして、前述したとおり、人間にはもっと成長したいという欲求が根本にありますので、次もがんばろうという意欲にもつながっていきます。この欲求が刺激される動機づけ要因を充実させれば、満足度が高まって持続していく可能性が高いのです。

ただ、衛生要因、動機づけ要因ともに、一人の人間に存在するものです。どちらか一方を満たすだけでは、満足を導くことはできません。特に動機づけ要因がいくら満たされていても、衛生要因が満たされていない場合には、不満が非常に大きくなってしまいます。衛生要因を満たしつつ、動機づけ要因を充実することが重要です。

表彰制度をきっかけにしよう

では、どうすればいいのか――。仕事に満足する日本人の割合が低いというのは、動機づけ要因が不足していると考えられます。動機づけ要因には、「仕事に対する達成感」「他者からの承認」「仕事内容への満足」「責任感」「進歩」「個人的な成長」などが挙げられます。和を乱さない、陰ながらがんばる、謙虚で控え目といった行為が美徳とされる日本の背景もあることから、なかなか仕事ぶりを認められる機会がないのかもしれません。

そこで、有効な手段として注目していただきたいのが表彰制度です。例えば、仕事の成果を称える表彰をすれば、「仕事に対する達成感」「他者からの承認」をダイレクトに刺激することができます。同時に「進歩」「個人的な成長」あたりも感じられそうです。現状、表彰制度は、日本で大いに活用されているとは言い難い状況ですから、その効果を試していただく価値はあると思います。仕事上の満足、不満の要因を探るとともに、ぜひ表彰制度についても目を向けてみてください。働く側にとってはもちろんですが、会社側にとっても、仕事の満足度アップ→業績アップのきっかけになるはずです。