ストレスフルな日々に終止符を

現代の日本は「ストレス社会」だと言われます。ストレスから心を病む人たちも絶えずいて、もはや人ごととは考えていられない状況です。あなたは日々の生活でストレスを感じていますか? ストレスフルとは言わないまでもストレスは誰しもにあるものだと推測しますが、同じような環境でも、人によって受ける心身へのダメージはそれぞれです。ストレスに強い人、弱い人の違いはどこにあるのでしょうか。ストレス自体は良くも悪くも変えられるといいます。心の在り方とも関わってきて、実はトロフィーとも遠い話ではありません。いったいどういうことなのか!? 2017年も終わりに近づいてきましたので、今年の総決算として、ストレスフルな毎日に終わりを告げて新たな年を迎えるべく、ストレスの扱い方についてアワードを絡めつつ探ってみました。

ストレスはどこからやってくる?

ストレスとは、刺激を受けたときに生じる緊張状態をさします。私たちの日常の中で起こるいろいろな変化がストレスの原因となります。例えば、天候や騒音などの環境的なこと、病気や睡眠不足などの身体的なこと、不安や悩みなど心理的なこと、人間関係の悩みや仕事など社会的なことが刺激に当たりストレス要因になるというのです。また、ストレス要因と聞くとマイナスな事柄を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、進学や就職、結婚、出産といった慶事も刺激になるので、実はストレスの原因になり得ます。

「みんなちがって、みんないい。」は詩人・金子みすゞの言葉で、個性の尊重が重要視されている昨今よく耳にするフレーズです。人と違うことを受け入れたり、異なる価値観の存在を認めたりすることは素晴らしく、多くの人がそれを自然に受け入れられれば、これこそストレスのない社会につながるのではと個人的には思います。しかし、往々にして利害の不一致や自らの思い描く理想像があるので、なかなか個々人の思いどおりにとはいかないのが私たちの社会なのです。皮肉なことに、それぞれが個性を主張がすればするほど、それらが刺激となってあらゆるストレスを増幅してしまっている、なんてこともあるのかもしれません。

不特定多数の人が集まり活動するビジネスの現場はその代表格かもしれません。厚生労働省の「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、仕事や職場に関して強いストレスを感じている労働者の割合は2016年(平成28年)で59.5%。何らかのストレスを抱えている労働者は6割近くいるとの結果となっています。この比率は近年の推移をみても、依然として高い水準にあるといえます(図1)。原因としては、仕事の質や量、仕事の失敗や責任の発生、セクハラやパワハラを含む対人関係、職場での役割や地位の変化などが挙がっています(図2)。思い当たる節は誰にでもありそうな調査結果です。

さらに、情報化社会となった現代では、知らなくて済んだことが耳に入り、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)によって、自らが認知できる人数以上の社会的ネットワークをコントロールしたりしなければならなくなりました。年功序列や終身雇用が崩れたことによって、チャンスを手に飛躍する人がいる中、多くのそうでない人には将来への不安が大きく立ちはだかっています。こうした不安を解消する方法が見えないというところからもストレスはやってきます。

心と体が受けるストレスの影響

気分が沈みがち、イライラするなどの状態が続き、それがストレスからくるものと思い至ったときどうしていますか? 人生が一変するようなストレスであれば、さすがに危機感を覚えて対処方法を考えるかもしれません。しかし、一つひとつのストレスはちょっとした事柄という場合は、気の持ちようだから少し経てば大丈夫とやり過ごすことが多いのではないでしょうか。実はこのストレス、刺激の強弱に関わらず注意が必要です。ストレスが私たちにどのような影響を与えているか知っておきましょう。

◆慢性的なストレスは脳を破壊する!?

ストレスホルモンとして注目されているのが「コルチゾール」です。このホルモンはストレスを感じると、副腎から分泌されます。体内へのエネルギー補充などの役目を担っていて、使命を果たすと脳に吸収されます。ストレスが過度でなければ脳内で正常に処理されて終わりになりますが、ストレスが積み重なって慢性化している状態では、コルチゾールが断続的に分泌され、あふれたコルチゾールが脳の一部を物理的に蝕んでいくというのです。

例えば、ネズミを身動きがとりにくい金網の中に長時間閉じ込めるという慢性ストレスの研究があります。慢性的なストレスにさらされたネズミの脳には明らかな変化が見られ、記憶を司り感情にも関わる「海馬」という領域の神経細胞がダメージを受けて減少したといいます。ささいなストレスでも、いくつかが重なったり、長く続いたりすればコルチゾールは分泌され続けるので、ストレスの強弱ではないことがわかります。ストレスは心の病につながるとされていますが、物理的に脳が障害されていくことで引き起こされているのです。

◆精神的重圧は血液循環システムを直撃

ストレスホルモンは「血栓」と呼ばれる血の塊を作ってしまうこともあります。血栓が血管をつまらせてしまえば、死を招きかねない重篤な症状を引き起こす原因になります。また、ストレスは心臓の血流量にも影響するという研究結果もあります。心臓の血流量が減少すれば、不整脈や狭心症、心筋梗塞などの危険性が高まってしまいます。特に50歳以下の女性の場合、ストレスによる心臓へのリスクが高いという結果がでていますので要注意です。子育てや家事、親の世話に仕事……など、それでなくても多くのストレスを抱えがちなので、意識してストレス解消していったほうがよさそうです。

◆免疫系に打撃。ガンとの関係

ストレスとガンって関係ありそうと感じている方、そのとおりです。ある研究では、ストレスホルモンがガン細胞の増殖をくい止める大切な免疫細胞の働きを止めてしまうということがわかっています。私たちの体の細胞は日々、生まれ変わっているわけですが、そのときにエラーが起きることもあります。これらエラー細胞は免疫細胞などの働きによって排除されて事なきを得ています。免疫細胞の働きに支障があると、ガンが増殖してしまう可能性が高まるというわけです。

ほかにも、ストレスが免疫システムに異変を起こすことで、脳を傷つけたり、炎症反応を促進させたりしまうという可能性を指摘する研究があります。

◆風邪、アレルギー、胃腸の不調、糖尿病まで……

ストレスは致命的な疾患を引き起こすだけではありません。気持ちに負担がかかったときに「あー、胃が痛い」と表現したことのある人いますよね? 私にも覚えがありますが、本当にキューっと胃がしぼられているようです。これは気のせいではありません。ストレスによって、胃の機能が弱まったり、胃酸が減ったりするそうです。ストレスはじわじわと体の各器官に影響を及ぼしていて、「風邪をひきやすい、長引く」やア「レルギー・じんましん」「糖尿病の悪化」などにも実は関わっているそうです。

ストレスは悪者じゃない

前項で散々、こわい話を書いてきてなんですが、「ストレスは健康に悪い」と思うこと自体がよくないらしいです。驚愕の事実です……。アメリカでの3万人の成人に対して行われたストレス調査では、強度のストレスがある場合、死亡リスクが43%も高まっているという結果がでました。しかし、忘れてはならない事実があります。死亡リスクが高まったのは、「ストレスは健康に悪い」と考えていた人たちだけだったそうです。つまり、強度のストレスがある人でも、ストレスにマイナスイメージを持っていない人たちは、死亡リスクの上昇はなかったわけです。それどころか、強度のストレスがありつつも、死亡リスクはストレスのない人たちのグループよりも低かったという驚きの結果でした。

この話を知って思い出しました。家族が会社で受けたというストレスチェックの結果を持ち帰ってきたときのことです。私よりハードに働いていてストレスがありそうだけれど、「ストレスほとんどなし」の結果。確かにストレスなさそうに見えます。生活リズムに余裕のありそうな私のほうがストレスにやられそうなんですけど……と思ったものでした。この家族と、私との決定的な違いは「ストレスをストレスだと考えていない」ところです。ストレスを悪者に捉えない、この考え方が寿命にまで関わってくるとは意外でしたが、身近にいるので納得です。私のストレスを理解してくれなくてイラッとしますが、だから健やかにいられるのかと感心します。

どうやらストレスホルモンは、同じようなストレス状況でも「考え方」で分泌量が変わるということです。ストレスだ、嫌だなと思うことがあると、ついつい、何度も思い出して考えてしまうってことありませんか? 例えば、会社での上司の叱責を家で思い出しプレッシャーを感じてしまう。これは、一つの事柄で何度もストレスを感じているということになります。この間、体内ではストレスに対処するため、ストレスホルモンが出っぱなしです。逆に切り替えて考えなければ、負のスパイラル状況を断ち切ることはできません。

考え方しだいです。年齢を重ねることを「経験や知識が豊富」「賢さがある」などポジティブに考えている人たちに比べて、「役立たず」「頑固」などのネガティブイメージを持っている人たちのほうが、心臓発作からの回復が遅かったという疫学調査もあります。ポジティブ思考になるのが難しいという声も聞こえそうですが、詳細は事項に譲りますね。ここでは、ストレスによってあらゆるリスクが高まりますが、だからといってストレスがイコール健康状態の悪化につながるわけではないということをわかってください。誰もがストレスを抱える社会ですが、ストレスをポジティブに捉えることで、違った状況を作り出せるのです。

自分の評価を他者に委ねない

ストレスを感じてしまう状況は、「仕事で失敗をしてしまった」「やらなければならないことが終わらない」「自分は評価されていない」などマイナスな感情が多いと思います。要因はさまざまでも、根底にあるのは人生や自分への満足度の低さがあるのではないでしょうか。言い換えれば、自分を認めてもらいたい、ほめられたいというのは人間が持つ本能的な欲求ですが、この承認欲求が満たされていないからストレスを感じてしまうともいえます。所属する会社や家族、地域という場で認められ、ときにほめられることで、人は承認欲求が満たされます。

しかし、他者に認めてもらいたい、ほめてもらいたいという欲求は、新たなストレスを生む可能性があります。他者はうつろいやすく、思いどおりにはできないからです。もしかしたら、承認が得られないこともあるかもしれません。可能性は十分あります。しかし、承認欲求の満たし方は、他者から承認を求めるだけではなく、自分自身を判断する自己承認と呼ばれる行為でも満たされます。

自己承認といえば、印象的なエピソードがあります。1996年のアトランタ・オリンピック女子マラソンで三位に入賞し、バルセロナに続いてメダル獲得という快挙を成した有森裕子のレース後の言葉が「自分で自分をほめたい」だったことです。その年の流行語大賞に選ばれましたが、今でこそ思い出すべきではないでしょうか。これにはもとになった楽曲があって、作詞したシンガーソングライターの方は「苦しんだ自分も、喜んだ自分も、全部知っているのは、あなた自身だから。人にほめてもらうんじゃなくて、自分でほめなさい」というメッセージを込めたと伝えています。やはりオリンピックに出るからには金メダルを目指していたのでしょうが、有森選手はやりきった思いを冒頭の言葉にしました。自分は自分にしかなり得ないので、認められる部分、ほめられる部分を自分のなかでしっかりみつめていくことが、ポジティブな考えを生むことにつながるのではないでしょうか。大なり小なりのストレスは必ずかかってくる現代では、自分を肯定的に捉えることがストレス反応を最小限にする秘策になりそうです。自分をほめるために、自分のためのトロフィーを作ってもいいかもしれません。今年1年の自分のがんばりにいかがですか!?

 

参考文献:
NHKスペシャル取材班(2016)『キラーストレス――心と体をどう守るか』NHK出版
マクゴニガル,ケリー(2015)『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』(神崎朗子訳)大和書房