頭の中にある「やる気スイッチ」の押し方

ゲームやSNS、マンガなどの趣味・娯楽に「ハマる」はよくあることですが、これには脳の仕組みが関係しています。傍から見て何がおもしろいのか? というものに熱中する人もいます。これも、同じ脳の働きによるもの。要は脳の中にある「やる気スイッチ」が押されているかどうかになります。押し方がわかれば、パッとしない仕事ぶりも、辛いとしか思えない勉強も、面白いほど前向きに取り組めます。

楽しいことなら頑張れる! は人間の性

時間を忘れるほど集中して何かをしているとき、人は「楽しい」「目的達成した」「ほめられた」「興奮している」「ときめいている」「好奇心が働いている」などの状態になります。実はそのとき、脳の中ではA10神経が刺激されてドーパミンが分泌されていることがわかっています。ドーパミンは「快感」を生み出す脳内物質で、大きければ大きいほど強い快感や喜びをもたらします。さらに快感を味わいたいがために、同じ行動を自発的に繰り返すようになるほどです。これが「やる気スイッチ」の正体です。

非常に強力な作用なので、場合よっては、睡眠欲・食欲・排泄欲といった生理的欲求をも打ち負かすほどで、薬物中毒や依存症といった症状を引き起こす原因にもなります。社会的な問題としてよくメディアで騒がれていますので、深刻さはおわかりのことと思いますが、この快楽を求める脳の暴走も「やる気スイッチ」の作用で起こっています。度合いや内容により問題はありますが、楽しいことなら頑張れる! は、人間に備わった性なのです。

人は「喜びを自ら作る脳」によって進化した

快楽物質などと呼ばれていかがわしいイメージもあるドーパミンですが、不足すれば無気力になるなどの弊害が出てくるので、体にとっては必要な分泌物でもあります。人は原始の時代から、すぐに収穫できるわけではない作物を育てたり、村や町、国を作ったりする生き物でした。一見、役立ちそうにないものにも、好奇心という刺激を受けて懸命に取り組んできました。例えば、猫なら、いるかどうかもわからないネズミを一晩中待ち伏せしたり、ワナをしかけたりしないものです。

今においても地道な努力を続けて、資格をとったり、スポーツで金メダルを目指したりするのは人間くらいですが、人に現在のような繁栄をもたらしたのは、直接的な報酬がない事柄でも「自らの脳から報酬(喜び)を得て取り組む」という仕組みを手に入れたからといえます。人は「やる気スイッチ」を得たことで、ここまで進化してきたのです。

好ましい刺激が減りつつある現代社会

しかし、ほしいものが気軽に手に入り環境も整う日本社会では、必死に頑張って何かしたいという脳レベルでの欲求が希薄になってきています。そのため、意欲ややる気が起こりにくくなっているといえます。豊かな社会で幸せなはずなのに、そうでもないというわけです。ギャラップの2010年調査によれば、日本の幸福度は81位だそうです。モノはあふれていますが、心を満たす何かが足りないのかもしれません。

脳は快感を求める、ということを真剣に考えていく必要があるのではないでしょうか。脳は、ポジティブな期待やほめられた体験に強く反応します。「ほめる」「ほめられる」ことは、人に備えられた強い快感刺激なのです。今だからこそ、注目するべきです。

「ほめる」ならコストゼロ!

人は、社会的に評価されて喜びを感じるとき、感謝やお祝いの言葉を聞いて幸せな気持ちになるとき、ドーパミンが大量に分泌され強い幸福感を得ます。また、脳科学的に見れば、人の脳は境遇や年齢、性格などに関わりなく、変化する可能性を秘めているといわれます。

表彰文化は、特に日本では浸透しているとは言い難いですから、この「ほめる」「ほめられる」という行為がもたらす効果は、想像の域を遥かに超えた何かを生み出すはずです。その上、ほめる行為は、実行コストゼロです。ほめても、ほめられても、脳内神経は刺激されます。ほめることを意識して「やる気スイッチ」をポチッと押してみましょう!

 

参考文献:
『脳内麻薬―人間を支配する快楽物質ドーパミンの正体』中野信子著/幻冬舎新書
『脳が喜ぶ!ホメ上手!』吉田たかよし著/コスミック出版
『脳を活かす勉強法―奇跡の「強化学習」』茂木健一郎著/PHP研究所