「表彰」は社員と会社のコミットメント!?

「うちの会社は」という言い回しには、会社への愛が感じられませんか? よく既婚者がパートナーのことを「うちのは」という感じと似ています。社会心理学では、自分が所属する集団に対して抱くこの一体感のような感覚(愛ともいえる!?)を「帰属意識」といいます。別の方面から見れば、集団に対する個人の忠誠心みたいなものですから、会社などの組織にとっては必要不可欠なものといえます。しかし、ただ所属するだけでは帰属意識は生まれません。帰属意識はどこからくるのでしょうか?

人は人を求める生きもの

そもそも人は、本能的に「集団に所属したい」「仲間がほしい」といった社会的欲求を持っています。どんなに孤独を愛する人でも、誰かと一緒にいたいと思う親和欲求があるため、物理的にも、精神的にも一人で生きていくことは難しいのです。人は長期に渡って孤立状態になると、耐え難いほどの精神的な苦痛や不安を感じるようになるといいます。

特に親和欲求については不安を感じると強くなることが、心理学者シャクターの実験によって明らかにされています。実験では、電気ショックの実験という依頼で集めた被験者たちを二つのグループに分けて、一方のグループには「かなり痛みの強いショック」などデメリットを大げさに、もう一方のグループには不安を感じさせないよう「それほどの刺激ではない」と伝え、実験までの待ち時間の過ごし方を観察するというものでした。結果としては、不安を大きく感じた前者のグループの人ほど、誰かと一緒に過ごすことを望んだそうです。

人は誰かと一緒にいることで安心し、くつろぎを得ることができます。個人差や状況によって強弱はありますが、本能的に人は人を求める生きものなのです。

会社への肯定的な想い

組織に所属したいという想いも同様で、人は協力したり助け合ったりできる集団に所属することを本能的に求めています。一人ではなし得なかったことができるという魅力もあるからです。ただし、感情には、人それぞれの度合いがあります。なんの思い入れも持たない場合もあるし、逆に自分の一部とみなすほどの気持ちを抱ける場合もあるという具合です。後者の肯定的な想いが「帰属意識」になります。組織に対するコミットメントということもできます。

コミットメントとは、「かかわりあい」「委任」「誓約」などを意味し、責任を伴う約束ごと。会社組織と個人であれば、金銭的な報酬ややりがいのある仕事、信頼できる仲間の提供に対して、仕事の能力、経験、知識、やる気などを提供するという関係を指します。これが充実すればするほど帰属意識は強まり、組織にとっても、個人にとっても、メリットのある関係が築かれることになります。

働きがいをも左右する帰属意識

実際に帰属意識の有無は、働きがいや転職意向に影響するという調査がありますので紹介します(図1)。働きがいを感じているグループにおいて、会社に対する帰属意識を感じている(「感じている」、「やや感じている」と回答した人を合計)割合は75.5%になりますが、一方で、働きがいを感じていないグループでは30.3%に留まっています。さらにいえば、働きがいを感じているグループでは、転職への意向も低い傾向にあります。一概に転職が悪いとはいえませんが、今、所属している組織に魅力を感じられないというのは問題がありそうです。

【図1】働きがいと帰属意識、転職意向の関係

帰属意識01

出所:株式会社NTTデータ経営研究所「2010年11月8日 働きがいに関する意識調査」より

このように帰属意識と働きがいは相関関係がありそうです。ほとんどのビジネスパーソンが1日のうちに費やす仕事時間を考えれば、働きがいを高めることは必須項目。働きがいを左右している帰属意識について、もっと留意してもいいのではないでしょうか。

組織と一定の距離を保つ傾向に

しかし現状では、職場に対する帰属意識は低下している傾向にあります。「国民生活白書」(平成19年版)の「会社に対する帰属意識の変化」(図2)によると、会社に対する帰属意識について「もともとない」とする回答は1995年で18.4%。2000年になると23.7%に高まります。また帰属意識が「薄れた」という回答についても、5年間で19.4%から32.2%と10%ポイント以上も高まっています。

【図2】会社に対する帰属意識の変化

帰属意識02

出所:内閣府「平成19年版国民生活白書」より

つながりの希薄さが指摘される現代社会では、個人のテリトリーを守り、組織や集団から一定の距離を置きたいと考えている人が多いことがうかがえる結果です。

「表彰」が帰属意識を強める

お互いに求めず、求められずの関係は一見して気楽に思えるものですが、それ以上のものも生まれません。会社組織と個人で考えれば、意欲的な社員や働きがいの喪失など、お互いにとって得策でない状況になります。前項でも述べたとおり、金銭的な報酬ややりがいのある仕事、信頼できる仲間が充実したときに帰属意識が芽生えます。実は、これらを提供できる要件をすべて備えているのが「表彰」です。トロフィーを贈るということは、その人の仕事の成果を認める行為。また、それを周囲の人に広く伝え、お互いを認め合う空間を提供することでもあります。「表彰」で社員とコミットメントしてみませんか?

参考書籍:『面白くてよくわかる!社会心理学』齊藤勇 著/アスペクト