「中小企業 > 大企業」イタリアの構図

中小企業が大企業を負かすなんて所詮ドラマの話だと思っていた……。しかし、イタリアでは状況が違うらしい。トロフィー生活の契約しているアトリエも、中小企業ながら世界的なブランドと取り引きしている。なぜイタリアの中小企業は強いのだろうか?
(photo:イタリア北東部にあるヴェネト州 ベルーノ)

日本の下町工場はフィクションだから強い!?

池井戸潤氏の人気小説シリーズ原作のドラマ『下町ロケット』(TBS系)が、年始のスペシャル版で実質的な結末を迎えた。水戸黄門みたいに印籠を出すわけではないけれど、お決まりの勧善懲悪もので、今回もやっぱり期待を裏切らずに「善」のほうが勝っていた。ドラマでは善と悪の攻防がありつつ、下町の中小企業(佃製作所)の技術が大企業(帝国重工)をしのぐという筋書きも絡めている。弱者が勝つのでスッキリはするけれど、現実世界ではなかなかそううまくはいかないだろうと思ってしまう自分がいた。

強者が繁栄するのは世の常だが、ことイタリアに至ってはそう言い切れない。例えば、世界で活躍する企業は、中小企業のほうが断然元気がいいという。

台頭する「第3のイタリア」

イタリアといえば政府は大きな問題を抱え、景気がいいとはいえない。しかし、それぞれの地方都市が独立した自治を行い、自前の産業のグローバル化を進めているところがほかと違う。例えばイタリアでは国家が破綻しても、グローバル産業を持っている地方都市は生き残ると言われている。ちなみに日本は国家が破綻したら地方も危ういであろう。

イタリアを経済的な視点で見ると、3つのエリアに分けられる。ミラノ、ジェノヴァ、トリノといった、いわゆる「鉄の三角形」を中心に早くから近代工業化が進んだ北部と、農業を中心とする南部という2つのエリアは、経済格差が大きいことでよく知られている。それとは異なる経済地帯として活性化してきたのが、地場産業の集中するイタリア北東部から中部にかけての地域「第3のイタリア」である。アルプス山脈がそびえる自然豊かな山間地だが、国際的な競争力を持つ中小企業が多数存在している。

国際競争力を持った地方都市

第3のイタリアのエリアでは、いち早く大量生産に見切りをつけて、ブランド力やデザイン力の強化や輸出支援を積極的に行ってきた。そのため、繊維、皮革、宝飾、家具、陶芸といった中世にさかのぼる「職人」による伝統工芸の技に磨きがかけられ、地場産業が活性化したのだ。1970年代初頭のオイルショック時も、大きな打撃を免れ高い経済成長率を維持したことから、新しい産業構造として世界的に注目を集めた経緯がある。

以来イタリア経済は、製販一体型ビジネスの中小企業が主流となった。それだけではなく、線維産業などに見られるように同業者を一つのエリアに集積することで、高度で大規模なオーダーにも応えられる仕組みを有している。

デザインや機能など高い生産技術で国際競争力を持つことに成功し、「メイド・イン・イタリー」は「質の高さ」の代名詞として認知されるようになったのだ。実際、約1500もの国際競争力を持った地方都市があると言われているイタリア。職人による技術が、確実に次世代へと継承されていく土壌ができている。

自分がブレないイタリア人

中小企業の比率が高い、唯一無二の「職人技」が多数あるなど、イタリアとの共通項がある日本。しかし、日本の中小企業はイタリアのように儲からず、職人技といえば後継者難に陥っている。何が違うのだろうか。これは、自社の商品やブランドに対するアピール度の差ではないかと思う。

イタリアでは、大勢の意見よりも自分の価値観が一番大切という超個人主義な考え方がポピュラーだ。一から十まで思いどおりに事を進めたい性質だから、第3のイタリアのような産業形態が性に合ったということだろう。商品だって、良品だという自信があるから世界にだって臆せずに売り込む――、とてもシンプルだ。自らがしっかりとあるから、まわりに流されずブレない。

一方、日本の中小企業は、大企業の傘下に入って業務委託を受ける、いわゆる下請け取引で成り立っている部分がある。多少利益が目減りしても安定や安心といったメリットをとっているのだ。さらに日本人ですら知らない伝統技術も多い。グローバル化の進展、不況の長期化などで状況は変わりつつある。「奥ゆかしさ」が日本の美徳などとは言っていられない。そこにしかないものの価値を見出して、広く発信していくイタリアの強さを見習いたい。